臨床工学技士は、1987年に成立した臨床工学技士法に伴って定められた、比較的新しい国家資格です。
臨床工学技士とは、人の呼吸や循環、代謝機能を補助したり代替したりする生命維持管理装置の操作や、保守・点検を担う国家資格保持者のことを指します。平成28年には、「特定集中治療室管理料1」の施設基準に、「専任の臨床工学技士が常時院内に勤務していること」と記載されるなど、今後ますます活躍や必要性が期待される国家資格なのです。
今回は、そんな臨床工学技士を目指すために必要な過程、試験内容等を紹介します。
臨床工学技士の仕事とは
臨床工学技士の仕事は、一言でいうと「生命維持装置の操作」です。生命維持装置とは、人が生存するために必要な呼吸や代謝、循環などを代替したり、補助したりするもの。たとえば、人工呼吸器やカテーテル、ペースメーカーなどがそれにあたります。
また、そういった生命維持装置を保守や点検したり、国際的な医薬品・医療機器産業に活用されたりと、臨床工学技士はまさに医療の場で求められる機器の専門家と言えるでしょう。
臨床工学技士になるには
臨床工学技士になるためには、まず厚生労働省令で定められた養成所、もしくは厚生労働大臣の指定する科目を履修可能な大学に通わなくてはなりません。そこで専門的な技術や知識を身につければ受験資格が得られ、国家試験に合格することで臨床工学技士の資格が取得できます。
ただし、国家試験資格を得るためには、指定科目の単位だけでなく、第2種ME技術実力検定試験の合格も条件としている養成所も少なくなく、臨床工学技士への道は決して楽なものではありません。
臨床工学技士国家試験の試験地と内容
受験の関する手続きは12月中旬から1月の初旬に行われ、臨床工学技士国家試験臨時事務所に書類を提出する必要があります。日程詳細については、随時確認するようにしましょう。受験料は30,800円が必要なので、用意しておいてください。
その他の不明な点などは在籍している学校や厚生労働省が定める臨床工学技士国家試験の情報にて詳細を得ることになります。毎年輩出される合格者の中でも、大学および専門学校の新卒者が9割を占める傾向にあり、働きながらキャリアアップのために資格の取得を目指す人や、全く違う分野からの転職を目指す人が1割程度というデータです。
・臨床工学技士国家試験の試験地
臨床工学技士の国家試験は、毎年3月上旬の日曜日に東京、大阪、北海道、福岡の全国4ヶ所で実施されています。
・臨床工学技士国家試験の受験申込方法
臨床工学技士国家試験を受験するためには、願書と写真を公益財団法人医療機器センターに提出します。
なお、提出期間は毎年12月中旬〜1月初旬ごろに定められ、その他、受験手数料として30,800円が必要です。卒業した学校や養成所によっては、修業証明書(修業見込証明書)や卒業証明書(卒業見込証明書)、臨床工学技士国家試験受験資格認定書の写し等が必要になる場合もあります。
・臨床工学技士国家試験の内容
臨床工学技士の国家試験は午前(9:30〜12:00)、午後(13:30〜16:00)それぞれ90問の出題により実施されます。
なお、試験科目は以下の通りです。
- 医学概論(公衆衛生学、人の構造及び機能、病理学概論及び関係法規を含む)
- 臨床医学総論(臨床生理学、臨床生化学、臨床免疫学及び臨床薬理学を含む)
- 医用電気電子工学(情報処理工学を含む)
- 医用機械工学
- 生体物性材料工学
- 生体機能代行装置学
- 医用治療機器学
- 生体計測装置学及び医用機器安全管理学
臨床工学技士国家試験の合格率は
・第31回臨床工学技士国家試験
受験者…2737
合格者…2017
合格率…73.7%
・第30回臨床工学技士国家試験
受験者…2947
合格者…2413
合格率…81.9%
・第29回臨床工学技士国家試験
受験者…2739
合格者…1987
合格率…72.5%
臨床工学技士国家試験の合格率は、毎回70〜80%ほどとなっています。数値的には低いものではありませんが、そもそもの受験資格が養成所等に通い、専門知識や技術を身につけたものにしか与えられないことを鑑みると、やはり簡単な道のりではないと言えるでしょう。
<臨床工学技士国家試験の受験者は増加傾向にある>
このように狭き門である臨床工学技士国家試験ですが、実は受験者は年々増えつつあります。上記の29、30、31回だけをみると横ばいのようにも感じられますが、第10回臨床工学技士国家試験では受験者880名、第20回臨床工学技士国家試験では受験者1885名と推移してきていますから、めざましい伸びだと言えるでしょう。臨床工学技士はそれほど、これからの医学や医療現場において重要かつ必要とされている国家資格なのです。
国家試験の合格は臨床工学技士のスタートにすぎない
このように難関である国家資格、臨床工学士ですが、実は試験に合格しただけではまだまだスタートラインに立ったにすぎません。
なぜなら、臨床工学技士はそれぞれの専門性を高めることによって、さらなる認定制度を受けられるからです。もちろん、臨床工学技士の国家資格だけでも病院や診療所、医療機器メーカー等に就業できるのですが、個々の専門性を高めれば以下のような専門認定士や専門臨床工学技士になることもできます。
<専門認定士>
- 透析技術認定士(血液浄化業務)
- 体外循環技術認定士(人工心肺業務)
- 3学会合同呼吸療法認定士(呼吸療法業務)
- 臨床高気圧治療技師(高気圧治療業務)
- 臨床ME専門認定士(保守点検業務・安全管理業務)
- 心血管インターベンション技師(心臓カテーテル検査・治療業務)
- CDR: Cardiac Device Representatives(心臓植込みデバイス業務)
- 人工心臓管理技術認定士(補助人工心臓業務)
- 消化器内視鏡技師(内視鏡業務)
- 医療情報技師
- 上級医療情報技師
- 医療機器情報コミュニケータ: MDIC(医療機器管理業務)
- アフェレシス学会認定技士(アフェレシス業務)
- 周術期管理チーム臨床工学技士(手術室、周術期業務)
<専門臨床工学技士>
- 血液浄化専門臨床工学技士
- 不整脈治療専門臨床工学技士
- 呼吸治療専門臨床工学技士
- 高気圧酸素治療専門臨床工学技士
- 手術関連専門臨床工学技士
<臨床工学技士が携わる業務>
上記のように、医学会、医療業界は、それぞれの専門性によって細かく分けられる傾向にあります。これは、広く浅くではなく、それぞれの専門家を育てることによって、より発展した医療を実現できるようにしていくためです。
臨床工学技士を目指す場合、自分がどの分野を専門とするのか、あらかじめ目標を定めておくと良いでしょう。もちろん、必ずしも一つに絞る必要はなく、並行して数種の認定を受ければより活躍の場を広げることも可能です。
ちなみに、臨床工学技士の国家資格を取得して病院・診療所や診療所に勤めた場合、以下の業務に携わる機会があります。それぞれの分野を経験してみて、それからより自身が興味を抱いたり、合っていると感じたりした道を選んでも良いでしょう。
- 呼吸療法業務…人工呼吸器、吸入療法機器、酸素療法
- 人工心肺業務…人工心肺装置、冠灌流装置、補助循環装置、自己血回収装置)
- 血液浄化業務…血液透析、血液濾過、血液濾過透析、血漿交換、血漿吸着、腹水濃縮
- 高気圧酸素治療業務 (三本松)
- 集中治療室(ICU、CCU)業務…人工呼吸器、補助循環装置、急性血液浄化療法
- 手術室業務…人工心肺装置、除細動器、自己血回収装置、脳神経誘発電位装置、麻酔器、ロボット手術装置(ダヴィンチ)、内視鏡装置、医療用ナビゲーションシステム、生体情報モニタ
- 心臓カテーテル検査室業務…ポリグラフ、心臓電気生理学検査装置、心臓電気刺激装置(Stimulator)、高周波焼灼装置(アブレーター)、3次元 Mapping System(CARTO, EnSite, RHYTHMIA)、体外式心臓ペースメーカー、ペースメーカー、植え込み型除細動器(ICD)、心臓再同期療法(CRT-P, CRT-D)、植え込み型ループレコーダ(ILR, ICM)(アナライザー/プログラマ操作)、ローターブレーター、血管内超音波装置(IVUS)、光干渉断層像装置(OCT、OFDI)、補助循環装置(IABP、PCPS)、エキシマレーザー装置
もちろんこれ以外に、ME機器の管理業務や保守点検業務、輸液ポンプ・シリンジポンプ・生体情報のモニタ等、安全管理業務も臨床工学技士の大切な役割です。
臨床工学技士は、資格を取得するまでが厳しい道のりとなっています。
しかしその分、一度資格を手にすれば、その後の就職先や資格の活かし方に困ることはなくなるでしょう。医学や医療は、これから先も発展が望まれる分野であり、臨床工学技士は、まさにその分野で必要とされる国家資格なのです。