受験資格
作業環境測定士は、労働者の健康を守るため、さまざまな作業環境下における有害物質の有無を測定・分析するための国家資格です。労働安全衛生法では有害業務を定めており、その現場では、作業環境測定士が測定・分析を行わねばならないとされています。
労働安全衛生法で定められた有害業務というのは、高温・低温の環境下での業務やヒ素・水銀・硫酸・青酸といった有害物質を扱う業務、鉛・クロム・水銀といったガスや粉じんが発生する場所での業務、強い騒音が発生する場所での業務のこと。
作業環境測定士には、第1種と第2種の別があり、第1種作業環境測定士は、作業環境測定における測定計画の立案(デザイン)や試料の採取と分析の下準備(サンプリング)、簡易測定器による分析業務など、すべての測定・分析を行えます。
なお、測定・分析できる有害物質は、「鉱物性粉じん」「放射性物質」「特定化学物質」「金属類」「有機溶剤」の5種類があり、それぞれが独立した資格になっています。
対して、第2種作業環境測定士は、デザイン、サンプリングと簡易測定器を用いた簡単な分析業務だけを行えるという資格です。通常は先に第2種の資格を取得し、第1種を取得するという流れになります。
ただし、すでに取得している資格に応じて、作業環境測定士の国家試験が、全免除もしくは一部免除に該当する場合もあります。医師・歯科医師・薬剤師、環境計量士(濃度関係)、第1種衛生管理者・衛生工学衛生管理者、核燃料取扱主任者・原子炉主任技術者・第1種放射線取扱主任者などさまざまな資格が該当していますので、まずは取得済みの資格がこれらの免除対象に該当していないかどうかを確かめてください。
実際に作業環境測定士として登録するためには、公益財団法人安全衛生技術試験教会が実施する作業環境測定士試験で合格したのち、登録講習を受講することが必須条件になっています。さらに、講習終了後の修了試験として、筆記試験と実技試験を受けなければなりません。
修了試験に際して、実技試験が免除されるケースもあります。実技基礎講習を修了した場合は、そのコースに応じて、実技試験が免除される科目が定められています。
試験内容
作業環境測定士の試験方式は、第1種、第2種ともに、五肢択一式のマークシート方式になっていて、各1時間。20問が出題され、そのうち60パーセント以上で正解すれば合格です。
第1種、第2種の共通科目は、「労働衛生一般」「労働関係法令」「作業環境について行うデザイン・サンプリング(デザイン)」「作業環境について行う分析に関する概論(分析概論)」の4科目です。
第1種作業環境測定士の場合は、上記の共通科目に加えて、取得しようとする種別に応じて1科目から最大5科目までを受験できます。選択科目は、「有機溶剤」「鉱物性粉じん」「特定化学物質等」「金属類」「放射性物質」。これらも、共通科目と同じく各1時間で、五肢択一の20問です。
第1種作業環境測定士には、「鉱物性粉じん(石綿等を含む)に係る第1種作業環境測定士」「放射性物質に係る第1種作業環境測定士」「特定化学物質(金属であるものを除く)に係る第1種作業環境測定士」「金属類(鉛及び金属である特定化学物質)に係る第一種作業環境測定士」「有機溶剤に係る第1種作業環境測定士」の別があり、それぞれで受験すべき選択科目が定められています。
同時に2つ以上の種別の第一種作業環境測定士を受験することもでき、最大で5つの種別の第1種を取ることも可能です。
第1種作業環境測定士試験を受験して、選択科目において合格圏内にない場合は、第1種作業環境測定士試験に不合格ですが、共通科目4科目全てで合格圏内にある場合は、第2種作業環境測定士試験に合格したことになります。
さらに、2年以内に第1種作業環境測定士試験を再度受験する場合は、共通科目の受験が免除され、選択科目だけを受験することになります。
試験内容がこのように定められているのは、第1種作業環境測定士が、粉塵や有機溶剤などの種別に応じた分析技術をマスターしている専門家として位置づけられているからです。
第2種作業環境測定士では、第1種と共通の4科目を受験します。ただし、第1種衛生管理者もしくは衛生工学衛生管理者の資格を持っていて、試験科目一部免除講習を受ける場合は、4科目のうちの一部の科目で試験が免除されています。
受験料
公益社団法人作業環境測定協会が実施する国家試験の受験料は、共通科目のみ(第2種作業環境測定士)の場合、11,800円(税込)です。
第1種作業環境測定士試験の場合、共通科目と同時に選択科目を受験するケースでは、選択科目1科目共通科目で13,900円、2科目目からは3,300円ごと追加されて、5科目選択と共通科目で27,100円になります。
共通科目が免除で選択科目のみを受験する場合は、1科目選択で10,600円。2科目目以降は、1科目ごとに3,300円が追加され5科目選択で23,800円になります。
受験料は今後改定される恐れがありますので、公式サイトで正式な情報をご確認ください。
試験日程
例年、第1種作業環境測定士試験が8月下旬に、第2種作業環境測定士試験が2月中旬と8月下旬に行われています。
第1種作業環境測定士の受験は、年に1度しか機会がありませんので、そこを逃さないよう、ペース配分を行っていきましょう。
難易度(受験者数、合格者数、合格率など)
有機溶剤や金属粉じんといった、特定の作業場における作業環境の測定を行える第1種作業環境測定士の資格は、企業や大学の研究所において今後ますます必要とされるものと言えるでしょう。
平成27年度の試験では、第1種試験の受験者数1,065名に対して、合格率67.5パーセント。第2種試験では、受験者数1,351名に対して、37.5パーセントの合格率でした。
第1種試験では、さほど合格率が低くありません。そのため、難易度が高くないと考えるかもしれませんが、この試験を受験しているのは、すでに第2種作業環境測定士試験に合格していたり、作業環境測定の業務にかかわっていたりといった人ばかり。その中で6割ほどの合格率しかないというのは、決して難易度が低いわけではありません。
実際、第2種作業環境測定士の合格率は4割ほど。受験資格が厳しく設けられた中で、合格率がこの程度にとどまっているのは、難易度がかなり高い試験であることを示しています。
試験合格後に受けなればならない講習の内容や修了試験の内容も高度なため、計算や電卓操作に自信のない方や高校化学程度の知識がない方が計算基礎講習Eコース(統計計算)を選択したり、化学計算になれていない方が計算基礎講習Dコース(化学計算)を選択するなどの工夫も必要になるでしょう。
しかし、登録講習を受けるのは作業環境測定士試験に合格するだけの知識を有していることが前提なので、修了試験で不合格になることはほとんどないようです。
作業環境測定士の資格に関する公式URL
勉強時間目安
作業環境測定士試験の勉強は、参考書を使った独学での勉強がおすすめです。公益社団法人日本作業環境測定協会による講習会がありますが、平日の日中に開催されているため、働いている方は受講が難しいでしょう。
資格取得の順番は、第1種と第2種の共通科目をしっかり学び、第2種に合格したあと、第1種の選択科目を受験するのがスタンダードです。こうした順序を経ることで、学習計画が立てやすくなります。
勉強法としては、まずは参考書で必要な用語を一通り学習したのち、過去問を解きながら頻出分野や問題の傾向をつかみながら知識を増していきましょう。
過去問の解き方は、複数の科目を同時に勉強するのではなく、1つの科目を集中して進めるほうがより理解が深まります。
作業環境測定士の試験には、労働安全衛生法をはじめ、労働安全衛生規則など各種の法令関係が多く出題されます。法令関係の勉強は、法令の構造を頭に入れながら、繰り返し読みましょう。
次に、化学に関係する問題が多く出題されています。大学で化学を専攻した方は、大学で使用した教材を再度勉強すれば十分でしょう。大学で化学を専攻しておらず、高校以後化学を勉強していない方、さらには高校でも化学を履修していなかった方には少々難しい試験と言えます。高校の教材や参考書を使用して、早めに準備を始めるようにしましょう。
試験までの勉強期間は、学校での履修履歴や取得している資格、キャリアなどによって異なりますが、1日2時間の学習時間を確保し、約3カ月程度の勉強が目安です。これまでに作業環境の実務経験がある方は、デザインサンプリングや評価のイメージをつけやすいので、勉強時間ももう少し短くなるでしょう。
ただし、共通4科目のひとつ「分析に関する概論」では、高校程度の化学の知識が問われます。高校時代に化学を履修していなかったという方は、化学の復習にも重点を置かねばなりません。試験の4カ月ほど前から受験に向けた勉強を行っていきましょう。
おすすめ参考書ランキング
公益社団法人作業環境測定協会では、ガイドラインやハンドブック、ポイント付きの過去問などが販売されていますが、独学のための参考書として、また、試験合格後の資格登録講習のテキストとして購入するのもよいかもしれません。
市販されている参考書の中で最もおすすめなのが、三好康彦著『第1種・第2種作業環境測定士試験 攻略問題集』です。過去5回分の試験問題が掲載されています。過去問を比較しながら解くことができ、それぞれがわかりやすく解説されているので、どこを重点的に勉強すればよいかポイントをつかみやすいというのが、人気の理由です。
どの資格試験にも言えることですが、広範囲に渡って出題されるので、ただランキング上位の参考書を読むことより、過去問を解きながら出題の傾向、自分の弱点を把握しながら覚えていくという方がより効率的です。
この問題集に掲載された過去5回分の問題を3回程度解けば、問題の傾向と対策を把握できます。問題文のすぐ下に載せられている回答解説を目に入れないよう目隠しを用意し、問題を解いてから確認するのがおすすめの勉強方法です。
また、津村ゆかり著『図解入門よくわかる最新分析化学の基本と仕組み』は、分析の基礎的な理論から機器のこと、認証に関することや心構えまで非常に幅広い内容が網羅されています。
さらにはそれらが図解入りで非常に分かりやすく説明されています。そして、統計上の処理が必要な精度管理や妥当性評価、検量線で使う最小二乗法などに関して実務レベルで解説しています。受験後にも重宝するテキストでもありおすすめです。
上本道久著『分析化学における測定値の正しい取り扱い方―“測定値”を“分析値”にするために』についても、分析化学において数値の取り扱い方や捉え方を学ぶための参考書としてよいでしょう。、
また、試験科目の「労働衛生一般」「労働衛生関係法令」は「衛星管理者」の問題から出題されているため、より深く勉強したい方には、加藤 利昭著『第1種衛生管理者 集中レッスン』がおすすめです。
オンライン講座
第1種作業環境測定士試験を、スマホ・PCで学べるオンライン講座もあります。監修は先ほどご紹介した、三好康彦著『第1種・第2種作業環境測定士試験 攻略問題集』の出版社であるオーム社です。徹底的に分析してまとめた過去問を繰り返し解き、わからないところはテキストで確認しながら勉強を進めることができます。
また、コンシェルジュによるサポートを受けることができ、日々の課題や試験に関する情報を得て、問題の質問をすることも可能です。20年以上にわたる実績に基づいたノウハウが詰め込まれた講座を、1年間好きなだけ受けることができます。
作業環境測定士試験の受験を考えている方は、勉強に充てられる環境は様々でしょうが、ご自身に合った方法を選んでみてはいかがでしょうか。