前回は、現役臨床工学技士の方に、日々のスケジュールや休日の過ごし方などを伺ってきましたが、今回は実際の現場の「遣り甲斐」、「苦労」などを聞いていきます。
■日々の仕事の中でどのような点にやりがいを感じますか?
先の質問でもお答えした通りですが、やはり患者様とのコミュニケーションの中でやりがいを感じることが多いですね。お年寄りの方などは、「もう自分は齢だから、難しい事は解らないよ、勝手にそっちでやってくれ」と言われたり、投げやりな態度で治療に臨んできたりすることもあります。
もちろんそれでもいいのかもしれませんが、私はやはり、自分の言葉で伝えていきたいと考えています。透析と一言で言っても治療内容の説明が難しいですが、できるだけわかりやすく、伝えようとしています。
透析されている方の中には、慢性疾患特有の症状から、精神的に落ち込んでいたりする傾向にある方もいらっしゃいます。「辛さが分かってもらえない」と常に思っていると、やはり精神的に来てしまいますよね。そのような方々とは、なるべく丁寧にコミュニケーションを取るようにしています。会話によって信頼関係を築き通じあえると、やはりやりがいを感じられますね。
■これまで一番良かった具体的なエピソードなどありますでしょうか?
特に具体的なエピソードはありませんが、病院に来られる方から、感謝の言葉をいただいたりすることはあります。そういう時は、「やっててよかったな」と思いますね。また、最初はうまくコミュニケーションが取れていなかった方と、長い時間をかけて、心が通じ合っていくことを感じたりするときも、仕事に対して達成感を感じられる瞬間だと言えます。
■逆に日々苦労を感じる点はどういう部分でしょうか?
やはり、来院される方に、治療の内容を理解していただけなかったり、うまくコミュニケーションがとれず、「通じ合えないな」と感じたりすると、辛さを感じることはあります。
実際、毎回透析の治療を受けに来る人でも、度々病院側のスタッフに対して嫌な態度を取られる人には、ストレスを感じざるを得ない、ということはあります。我々も人間ですからね。
■これまでで一番苦労された事はなんですか?具体的なエピソードを教えていただけますか?
一番大変なのは、「透析に来ない方」です。放っておいたら死んでしまいます。実際、以前にそういった方がいました。新聞記者の方だったのですが、透析日になっても、病院に来ないんです。
その方が病院に来ないので、私がその方の家に電話すると、家にいたんです。
「どうして来られないんですか」そう聞くと、「透析に行きたくない」とおっしゃったんです。
その時点で、2日間透析を受けていませんでしたし、おそらく体重も増えているはずなので、絶対に来ないと危ない、ということでスタッフが家まで迎えに行ったのです。
そうしたら、カギがかかっていて出てこないんです。ドアの隙間から何回かやりとりをしてもらちがあかず、とりあえず、一週間分の薬をポストに置いて帰りました。
その後も何度か家に伺ったのですが、結局病院に来てくれず、2週間後救急車で運ばれてきました。苦しそうで、透析室に入るなり「苦しい!助けてくれ!」って。尿毒症状がどんどん進行して、水も溜まってよほど苦しかったんですね。
その日に「明日からちゃんとこないといけません」と伝えたのですが、結局また来ず、その1週間後ぐらいに心停止の状態で救急車で運ばれてきて亡くなりました。その方が最も苦労しました。
■臨床工学技士になりたいと志をたてられ、実際に従事されてますが、当時イメージされていた仕事と同じですか?違いますか?(違う場合はギャップの部分を)
そこまで大きな違いはありませんが、「見る」だけと「やる」のではだいぶ違いますよね。自分が手を加えることによって、「この方の命を左右するんだ」という認識を持つと、意識が変わってきます。臨床工学技士にとって、「人の命を預かっている」という意識は非常に重要なものです。機械じゃなく、人間を扱っているんだと。そういう意識の変化は、漠然と「なりたい」と思っていた時と、実際に「なった」あとでは相当な違いがあります。
ありがとうございました。
次回、最終回は、臨床工学技士に今後求められること、を中心にお話を伺っていきたいと思います。